Q1.0住宅 データから導く計画マニュアル2023

 家の燃費 ≠ Ua値

 鎌田 紀彦先生の書いた『Q1.0住宅 データから導く計画マニュアル2023』が発売されたという事で早速購入しました。膨大なデータとグラフで解説されているため、しっかりと読み込んでいきたいと思います。

 そもそもQ1.0住宅とはなんでしょうか。Q1.0住宅とは鎌田先生が提唱した、一般住宅で暖房費を半分以下で全室暖房を可能にする住宅のことです。実際、これを実現しようとするとQ値がおよそ1.0前後になるため、そのように命名されたそうです。

 現在、日本の省エネ基準における断熱性はUa値で表示されています。実は、平成25年以前はすべてQ値で表示がされていました。Q値からUa値に基準が変更になった理由のひとつに、プレハブメーカーの陳情があったとされています。

 Ua値の場合、同じ断熱構成にした場合、ほとんどUa値の数値は変化しません。しかし、Q値の場合は、同じ断熱構成にしても大きな家程Q値が低く、小さな家程Q値が大きくなる性質があります。

 つまり、小さな家程省エネ基準に適合させるのが難しいのがQ値による基準だったのです。これは、プレハブメーカーのように断熱材の厚みを変更するのが難しいハウスメーカーにはとても悩ましい問題でした。

 そこで断熱構成だけでUa値がほとんど決まるUa値のほうが、省エネ基準を適合させるのに都合がよかったという訳です。Ua値に変更したことで、いくつかの問題が生じました。ひとつは換気による熱損失を捨ててしまったことです。

 熱交換換気を採用するかしないかで、一般的な住宅では20~30%、高性能住宅で50~70%も暖房エネルギーが違ってきます。よって、同じUa値の住宅でも全く暖房費が違うということが起きてきます。

 Q値の場合はこの換気による熱損失も計算に入っていたため、省エネ基準をクリアするのに絶対に換気も考える必要がありました。現在はUa値のため、そこを考える必要は少なくなってきています。

 実際には一次エネルギー消費量計算時に入力する必要があるので、まったく考慮しないわけではありません。しかし、Ua値に基準が変更になってから省エネの実務をはじめた設計者にはQ値の感覚がかなり低いです。私も含めてですが。。。

 また、外皮面積の違いも反映されなくなってしまいました。例えば総2階の家と、コの字の平屋では、同じ床面積でおよそ1.3倍以上も外皮面積が変わります。つまり同じUa値の場合、コの字の平屋のほうが1.3倍も暖房負荷が大きくなります。

 Q値の場合はこのあたりも計算に反映されています。実際、この本でUa値、Q値それぞれと燃費の関係を示したグラフがいくつもありますが、Ua値との相関関係はほとんどなく、Q値とは綺麗な相関関係にありました。

 また、昨今のUa値競争によって、窓を極端に小さくしてトリプルガラスにするという設計も目立つようになってきました。実際、日当たりの良い南面では、ペアガラスにして大開口にしたほうが、燃費が良くなる場合が多いです。

 単純なUa値比較だけでなくて、シミュレーションによる燃費性能で検証することの重要性を再認識しました。

2023年9月29日(金)

株式会社小栗材木店

常務取締役 小栗 良太