数字を使って嘘を付く営業トーク。

 現在、高断熱住宅ブームと言っても良い程、どこの工務店にいっても高断熱を謳っています。実際は、工務店ごとの実力って物凄く違うんですが、それをお客様が見極めるのは難しいなと思っています。

 さすがに耳心地の良いポエムで騙す手法というのは、お客様が賢くなってきているので通用しなくなってきているなというのは感じています。一番厄介なのは、数字とかデータを用いて錯覚させる手法です。

 例えば、こんな営業トークは実際によくされています。

『ネオマフォームは熱伝導率0.020[W/(m・K)]だからグラスウール(高性能16k)の熱伝導率0.038[W/(m・K)]の倍近い性能があります。当社は断熱材にネオマフォームを採用している高性能な住宅を提供しています。』

 前半は、物性値の話なので嘘はついていません。しかし、後半は嘘の可能性があります。なぜかというと、断熱性は断熱材×厚みで決まってくるからです。上記のように倍の性能差がある断熱材の場合、厚みを倍にすれば性能値=熱貫流率W/㎡・Kは同じになります。

 気密性能は設計と施工によって決まりますが、断熱性能は断熱材×厚みが決まります。つまり、ネオマフォーム20mmしか使っていない壁よりも高性能グラスウール16kを100mm使っている壁の方が熱貫流率は良くなるのです。

 これが、本当のデータを使って嘘をつくという手法になります。本物のデータや物性値を用いるために説得力があるのがやっかいです。もちろん、ネオマフォーム自体は良い断熱材ですが、それを使って嘘のトークがあるのもまた事実です。

 断熱性能は最終的にUa値で表されるので、断熱材の物性値のみをアピールされた場合は要注意です。では、Ua値が良ければ低燃費な住宅になるかといわれたそうでもありません。実は、Ua値と暖房負荷の相関関係は低いということが研究で分かっています。

 Ua値というのは、あくまで熱貫流率U値のアベレージになります。天井(屋根)、壁、床(基礎)、窓それぞれで熱貫流率が違うのですが、それらを合計して外皮面積で平均したものがUa値となります。

 当然、窓が最も数値が悪くなるので、Ua値だけをあげようと思ったらこうなります。できるだけ窓を小さくする。これでUa値は格段に良くなります。しかし、そういった場合、冬場の日射取得率は極端に悪くなってしまいます。

 結果として、Ua値は良くなったけど暖房負荷は増加するという現象が起こります。現在の断熱基準がUa値になっているため、断熱等級を取得するために無理して窓を小さくしている例をよく見かけるようになりました。

 お客さまもUa値しか気にしていないため、Ua値が低い家が建てられるとお客様も満足、工務店も性能値をアピールできて満足でwin-winの関係に一見みえますが、実際住んでみると思ったより暖かくない、暖房費が高いということが起きているかもしれません。

 最終的な目標は、Ua値ではなく、暖かくて涼しい家を冷暖房費が安く建てることかなと思っています。最終的には家ごとにシミュレーションをしていくことで冷暖房負荷が算出できるのですが、そこまでやるのが最も信頼できるかなと思います。

 主な断熱の指標のまとめ

  • 熱伝導率W/m・K⇒物質の熱の伝えやすさの指標これだけでは性能は決まらない。
  • 熱伝導率W/㎡・K⇒断熱材×厚みで算出される。㎡あたりの熱の伝えやすさ。
  • Ua値⇒家の断熱性能の指標。実は、暖房負荷との相関関係は低い
  • Q値⇒以前使われていた断熱性能指標。Ua値との違いは換気による熱損失が含まれているのと、床面積で割っている点。こちらは暖房負荷と綺麗に相関する。
  • 暖房負荷kwh/㎡・年⇒実際の暖房の燃費を表す指標。家中を設定温度以上にするために年間で必要な暖房エネルギー(床面積で割っているので総暖房負荷を出す場合は床面積を掛ける。)これで比較するのが最も正確。

2023年10月16日

株式会社小栗材木店

常務取締役 小栗 良太