みなさんこんにちは! 暮らしのお役立ちチャンネル。
岐阜県にある工務店、小栗材木店のりょうたです。
今回は、松尾設計室 代表取締役 松尾和也先生にご登場頂きました。
松尾先生が高気密・高断熱住宅をはじめたきっかけから、掘り下げてインタビューしました。
りょうた:今日はよろしくお願いします。
松尾:よろしくお願いします。
りょうた:松尾先生は、兵庫県明市にある設計事務所、松尾設計室の代表を務めています。
【夏涼しく冬温かい住宅を経済的に実現する】をキャッチコピーとして、省エネ住宅の快適な家作りを追求していらっしゃいます。
今回は松尾先生に色々とインタビューしていきたいと思います。
松尾先生は、快適な家作りを始められたのはいつ頃からになるのでしょうか。
松尾:きっかけになったのは、16歳の時、ボロボロの県営住宅から某大手住宅メーカーの家に引っ越した時かなと。
すごく広くて綺麗になったけれど、前の家よりも、暑くて寒くなったっていうのがきっかけで、大学は建築学科の熱環境工学の研究室に進んだのですが、それをスタートとするなら、高校1年生の16歳の時ですね。
その後、大学の建築学科選んだのが18歳、九州大学工学部建築学科の熱環境工学研究室に入ったのが20歳なので、そこから熱環境を本格的に勉強しました。
現在49歳なので、そういう意味では29年前かな。
年齢はまだ49歳ですが、省エネ住宅高断熱住宅に関しては29年間やっていますね。
りょうた:29年前に熱環境工学を選ぶ学生はいたのでしょうか?
松尾:いましたね。熱環境工学の研究室って日本全国にありますが、卒業後の就職先はゼネコンですね。
例えば鹿島建設や竹中工務店などの設備設計部か、あとは設備系のゼネコンがあります。
例えばダイダンさんとかですね。
大きなビルの空調計画をやっているようなところに行くか、あとは時代的に公務員になるかみたいな感じで、住宅メーカーに就職したのは僕ともう1人ぐらいしかいないかな。
そういった意味で、熱環境工学を専攻して住宅メーカーに就職した学生は、相当珍しかったと思いますね。
りょうた:そうですか。
その当時、高断熱に取り組んでいる工務店はやっぱり少なかったですか?
松尾:少なかったですね。
僕が知る限りで言うと、当時はFPの家とスウェーデンハウスさんが大々的にやっていましたね。
あとは、高断熱というのと少し毛色が違うかもしれないですが、OMソーラー協会さんが性能系の家をやっていたのかな。
りょうた:今は、お客様から高気密高断熱の家を作ってほしいとご要望がありますが、その当時言われるお客様はいましたか?
松尾:そうですね。高気密高断熱と言っている人や会社が地域に1社あるかないか、ある程度の街、もしくは僕がいるようなところはいるけど、当時は1社も高気密高断熱と謳っている会社がないエリアの方が多かったと思います。
りょうた:それではやはり、お客様の新規獲得は結構苦労されたのではないですか?
松尾:僕は父の後を継ぎまして、2003年頃にウェブサイトが流行り、うちが多分日本で最初にウェブサイトを作った設計事務所かな、それから仕事が取れましたね。
それで、日経アーキテクチュアという雑誌があるのですが、その雑誌にウェブサイトから仕事が取れる設計事務所ということで、見開き4ページで掲載してもらいましてね。
今でこそ当たり前な事ですけど、2003年当時はまだ大手住宅メーカーもウェブサイトを持っていなかった頃なので、かなり珍しかったですね。
りょうた:そういった先進的な取り組みをされて、集客をされたのですか?
松尾:そうですね。
まだ高気密高断熱と謳う会社がなかった中、今と同じように断熱の重要性というのをウェブサイト上で切々と語りましたね。
そうするとウェブサイト記事を読んでくださった方は、ああそうかって思ってくださるので、最初から集客に苦労したことはなかったかな。
りょうた:松尾先生が今、新しく取り組んでみえることや、考えていることは何かありますか?
松尾:小屋裏エアコンのver3ですね。
ver3をより深めていくこともですし、戸建て住宅業界の高断熱化省エネ化はこの15年ぐらいでものすごく進みました。
けれど、まだビル系やマンション、そういった一般建築物の高断熱化省エネ化は全く進んでいないです。
戸建て住宅業界での20年と言ったら言い過ぎかもしれないけれど、15年は遅れている感じがするので、そちらの高断熱化省エネ化に少しでも協力できればなとは思っています。
りょうた:まだマンションやアパートはシングルガラスが入っていますか?
松尾:シングルガラスはさすがにないけれど、空気層6mmのアルミ枠のペアガラスかな。
今安い建売住宅でももう少し上の物を使っているけれど、高級と言われている東京の億ションなどでも、空気層6mmのアルミ枠のペアガラスがついているので、根本的に15年ぐらい前に住宅業界でやったような、啓蒙活動をやらなければいけないのかなという思いはありますね。
りょうた:これからだんだん進んでくると、今のマンションでも高断熱化省エネ化されてきますか?
松尾:そうですね。
戸建て住宅のような小さな家でも100平米くらいで、少し大きくなると120平米などになってきますが、マンションは標準的に70平米、大きくて90平米なので面積が小さいから省エネというのと、その上下左右が部屋に囲まれているから省エネという、この2つがマンションの大きなメリットですね。
だから窓さえ頑張ればすごく省エネになりますが、その窓を頑張れていない、製品がなかったっていうのももちろんありますが、その辺りでこれから変化が起こってくればいいかなと思いますね。
りょうた:今、日本の住宅業界、注文住宅についてなにか思うことを教えていただけますか?
松尾:これは語り出したら2時間でも3時間でも語れるところですね。
設計に関して言うと、僕ら若かりし頃は、設計士というと雲の上の存在というか。
下積みをすごくして、やっと到達できるところみたいなのがありましたが、最近はそういうのが全くなくなってしまいましたね。
僕らが若い頃は、上司に図面を真っ赤にされ、その中で設計がうまくなっていき、やっと担当として任されるようになる、という感じでしたけど、最近はどんどんインスタントになってしまって、建築学科も出てないし、そういう修行も受けたこともないけれど、いきなりお客様の前に出てプランをしているというような。
たとえば、僕が握った寿司に値段をつけるという言い方をしますが、僕にも寿司は握れるじゃないですか。
でも僕が、来たお客さんや友達に対して、寿司どうぞと言って出すのは構わないけれど、それを2貫で1500円ですと言われたら腹立つでしょう。
今はそういう設計がすごく増えたなというのが、まず今の住宅業界について1つ思うこと。
それから、自分のFacebookにも書いて結構反響がありましたが、ほとんどの住宅会社が今結構受注難、集客難です。
大手住宅メーカーも30年というか40年前からそうかな。
支店長をはじめ幹部も集客、契約に関してもう取れなかったら人間のクズ。
取れたらすげえなお前!!で、年収も上がっていく。
けれど、もう契約取れたらそこで終了。
お客さんからしたら契約しましたよ、ここから頑張ってくださいねっていうのが本音ですが、業界の実態を言うと、契約が取れたところで全てが終わっていますね。
そこから先は消化試合。
もう抜け殻みたいに適当にやっとけよ、という会社があまりにも多いです。
だから、家自体にかける労力や情熱みたいなのはもうほとんど失われてしまって、その熱意がSNSなどで伝えることができないから、営業マンやその宣伝広告費にはすごくお金をつぎ込む。
けど相手に伝わらない、だから契約率も集客も上がらないっていう、悪循環に陥る会社がすごく多いですね。
住宅はちゃんといいもの作るっていう、情熱みたいなのを必死で発信していけば伝わると思いますが、そこに気がついていない会社さんがすごく多いなっていうのが最近切に思うことですね。
あともう1つ、私もやっていますが、YouTubeやInstagramがすごく増えたことによって、お客様の要望がみんな画一化しています。
10年前は、人によって要望がかなりバラバラだったので、それが個性でしたが
最近はみんな同じ要望になりましたね。
僕はエコハウス大賞やいくつかの賞の審査員をやっていますが、5年前と比較すると、出てくる物件ほとんど一緒ですよ。
そうすると、どこで差をつければいいんだよ、みたいな事になっているということ。
それから流行り廃りに敏感なルームツアーが今すごく多いから、5年で飽きちゃうだろう、5年持たないだろうなというような、流行を追いかける風潮がものすごく強くなったなと。
でも洋服や自動車と違って、3年や5年おきに着替えたり変更したりが住宅はできないので、今はそういったことをこの3年ぐらい、特に強く思うところかなっていうとこですね。
りょうた:そうですよね。
やっぱり僕も接客をしていて、言われることがほとんど同じだなとすごく感じます。今のお客様の年代で、このデザインなら合うのかもしれないけど、将来おじいちゃんやおばあちゃんの時になった時、本当に似合うのかというところもしっかりと考えてくださいねっていつもお伝えしていますね。
そういったところも含めて、長く住める住宅を、本当にしっかりと考えて建てていただけるといいのかなと思いますね。
松尾:そうですね。
模様替え衣替えもできないのでね。
あともう1つ、YouTubeそれからInstagramや何でもそうですが、無料で情報が入るようになった代わりに、明らかに間違った情報を言う方も増えていて、しかもその人が言ったことがバズった時、その情報を鵜呑みにする人がすごく増えましたね。
例えば、太陽光発電はつけるなみたいなこと。
流行っているキーワードを否定するだけで、今はバズってしまうので、どうしてもそれを信じてしまう人が増えてしまったいうところ。
せっかくやる気のある人が頑張れば、ある程度集客はしやすい時代になり、情報も無料で良い情報も流れている反面、同時に間違った情報も大量に流れてしまっています。
見る側の人が見分ける力があればいいんですけれど、そうではない場合、本当に厄介だなっていうのはすごく思いますね。
りょうた:YouTubeやInstagramだけの情報で情報収集している方はすごく多いので、ちゃんと本を読んでとかではなく、そこをすっ飛ばして自分はすごく詳しくなったって思ってしまう方、間違ったことばかり吸収しちゃっている方がすごく多いのかなって思いますね。
松尾:例えば本を出版するなどで、出版社はいい加減な事を言う人、名前が知られていない人、おかしなこと言っている人って出版社は声かけないですね。
声をかけたその時点で、第一次審査クリアみたいになっていますね。
自費出版は別ですよ。
自費出版は自分でお金出せば出版出来るので。
それから学術論文などは教授の査読が入っているので、あまりにおかしなこと言ったらその時点で跳ねられますよね。
でもYouTubeやネットって、バズればいいだけなので、誰も内容に関する審査がされてない。
無料で情報がいくらでも入る代わりに、偽の情報もすごく多いっていうその辺も、最近特有の問題なのかなって思いますね。
りょうた:そうですね。
できれば、ちゃんとした専門の本などから情報収集してもらうのがいいですよね。
松尾:はい。
もちろん本もおかしな事が書いてある本はありますが、それでもネットの情報に比べたらまだ間違った情報の確率は低いのかなと思います。
りょうた:ありがとうございます。
最後になりますが、今後の夢や目標があれば教えていただきたいと思います。
松尾:仕事はずっと興味が赴くままですね。
僕は利益やお金というよりは、自分が今面白いと思える事、あとは社会的意義があるかどうかの2点が軸で、ずっと動いてきました。
仕事やプライベートの夢や目標というわけではないですが、行きたい時にいつでも好きな所に行く。
そんな感じですね。
りょうた:ありがとうございます。
今日は兵庫県明石市にある設計事務所、松尾設計室の代表松尾先生にお越しいただきました。
ありがとうございました。
松尾:ありがとうございました。
株式会社松尾設計室 代表取締役
プロフィール
松尾和也(まつお・かずや) 一級建築士・松尾設計室代表。1975年兵庫県出身。「夏涼しく冬暖かい住宅を経済的に実現する」ことをモットーに住宅設計を多数手掛けるほか、エコハウスに関する執筆や講演、技術指導を積極的に行う。YouTubeでも家づくり情報を配信。著作に「ホントは安いエコハウス」(日経BP)、「エコハウス超入門」(新建新聞社)、「これからのリノベーション断熱・気密編」(新建新聞社[共著])などがある。
Youtube撮影日:2024年9月8日 @株式会社小栗材木店瑞浪モデルハウス